マズローの欲求五段階説と顧客の行動
マズローの欲求五段階説という名前は
聞いたことがありますか?
心理学で、あるいはマーケティングや
経営学との関連で知っている人も多い
かと思います。
人間の欲求は低次元のところから
高次元のところまで、5つの段階に
分けて考えられるとする説です。
海外旅行に添乗で出かけるとき
接客しながら、顧客の行動に着目すると
この欲求五段階説に当てはまる分類が
できると思いました。
そんなひまなこと、考える時間が
よく持てるものですが
逆に考えると、あまり理不尽な要求が
出たり、顧客の言い分に納得できないとき
感情的になったり、自分を忘れたりする
ことを防ぐためにも、顧客や問題と
少しばかり距離をとって
こういう余計なことを視点にいれると
客観的で冷静になるのに役立ちます。
【第Ⅰ段階 生理的欲求】
上の図表でも一番下、底辺にいちばん
大きくなっている欲求ですが、
「食欲」「排泄欲」「睡眠欲」という
人間だけでなく、動物がみな持っている欲求で
この欲求が満たされないと
生命の維持に関わるため
欲求の中では最も低次元な欲求ですが
不可欠MUST な欲求となります。
海外旅行のツア-の顧客でも、
お腹がすいているとき、寝不足なとき
不機嫌になることが多いですが
文句やクレームの元をただせば
「生理的欲求」に原因があるときは
私たち旅行業者に多くの場合
反省材料が多々あります。
案内すべきことはよくわかっていたけど
情報提供のタイミングが遅いとか
待てないとか
申し訳ないことが多かったです。
発言や態度が少し粗暴になる場合でも、
その状況をつくったのは
こちらが悪いと認識して
究極までがまんします。
【第2段階 安全欲求】
次に安全欲求です。
安心・安全な暮らしへの欲求です。
外よりは屋根のついた家で安全に
暮らしたいとか身につけるものを
必要と感じるとか、「衣食住」でいうと
「衣」と「住」にあたる欲求です。
日常生活で、病気や不慮の事故に対する
セーフティネットを求めるのも
安全欲求に発しています。
海外旅行のツア-でも
出発前に海外旅行保険をかけたり
行き先の治安が気になったり
旅先で安全啓蒙のアドバイスを
求めたりすることです。
何かトラブルがあって
予定のホテルが変わる事態になれば
最低でもグレ-ドが同じホテルを
要求しできればグレ-ドアップを
求めることも、安全欲求からです。
予定変更に遭遇すると
精神的に不安定となり、質問や
要求が多くなるのも安全欲求です。
不可抗力事由で旅行会社が免責になる
ケースでも、モンスタークライアント化
する事例もあって対応はやっかいです。
【第3段階 社会的欲求】
社会的欲求とは、家庭や社会に帰属したり、
友人をもったり、仲間に受け入れられたい
という欲求です。
旅先でも一人参加の人が話し相手を
求めたり、回りからおかしく見えないか
気になったり、自由行動の行き先でも
オプションの選択でも、みんなが
選ぶ方向と一致しているか気になる
という傾向です。
孤独を基本的に好まないという志向は
誰でももっているものですが
社会的欲求に起因します。
【第4段階 承認の欲求】
承認欲求とは、存在価値を認められたい、
正当な評価を求めるという欲求です。
団体のツア-ではこの傾向が日常
よく出てきます。
自分の海外旅行体験から人に
アドバイスしたり、情報提供したがる
傾向です。それが人に評価されたり
喜ばれたりすると承認欲求が大いに
満足された状態になります。
考えてみれば、SNSの情報発信や
口コミも個人の承認欲求が根底に
あると思われます。
【第5段階 自己実現の欲求】
欲求5段階説を唱えたのは
最も高次元の欲求として
図表でも最上位に位置するのが
自己実現の欲求です。
自己実現の欲求とは、自分の能力や可能性を
最大限に発揮したいという欲求です。
自分にしかない能力を引き上げたい、
自分の限界に挑戦してみたい、
という欲求です。
不特定多数でお互い顔見知りでない
参加者が集まってくる団体ツア-では
この誘因で参加する人はまれですが
特定の業界の人が集まるツア-や
ビジネスマン向けツア-では
業界全体のために自分が動くとか
或いは、芸術家で
これまでになかったテーマや
新しいコンセプトで作品を生み出す、
という目的が誘因となって
海外旅行に来ているのを
みたことがありますが
まさに自己実現の欲求そのものです。
普通の海外旅行では、良く見られるのは
第4段階承認欲求までですが
若い学生であっても
近い将来を見据えた自分の構想があって
日常生活ではそれなりの制約と犠牲を
はらって、バイトでためた資金を使って
海外旅行に来ているのであれば
それも立派な自己実現の欲求に
根ざしたものといえるでしょう。